「兄チャマ〜!」
突然僕の部屋に入ってきた四葉の姿に、我が目を疑った。
黒いワンピースに白いフリルのエプロンドレス、
そして頭にはフリルのついたヘッドドレス……。
そう、俗に言う「メイド服」ってヤツだ。
「四葉……その服、どこで手に入れた……?」
「『ニッポンの一部の若者の間でメイド服が流行っている』って聞いたグランパが、
わざわざロンドンから四葉に送ってくれたのデス。似合いマスか?」
四葉がスカートの裾を持ち上げて挨拶をする様は、
さすが本場英国流の、格の違いを感じさせられた。
「クフフフゥ、名探偵は変装術もカンペキなのデス。兄チャマ、降参デスか?」
前言撤回。
「それで変装したつもりかい、四葉クン?
メイドならメイドらしく振る舞ってくれないと。恰好だけなら、ただのコスプレと変わらんぞ?」
「……チェキぃ〜」
四葉はがっくしとうなだれ、力なくドアを閉めて部屋を出た。
ちょっとからかってやったつもりなのに、ヘコましちゃったかなぁ。
これだから女の扱いは難しい……。
四葉、ゴメン……。
と、数分後。ドアを叩くノックの音。
「マスター、お茶のお時間ですが、サロンで召し上がりますか?
それとも、お部屋にお持ちしましょうか」
「……部屋で頂こうか」
「かしこまりました、只今お持ちします」
静かにドアが開き、ティーセットを載せたワゴンが部屋に運び込まれる。
毎日僕にお茶を入れているせいか、紅茶を注ぐ手つきは慣れたもの。
「どうぞ、冷めないうちにお召し上がり下さい」
はじめの一杯はストレートで飲む僕の習慣を見越してか。
飲み頃を計る砂時計が終わると同時に、
ティーポットから注がれたままのカップを、僕に差し出す。
うーむ、カンペキだ。
僕の目の前の四葉は、まさにメイドを演じきっていた。
すごいぞ、四葉。兄チャマからキミに教えることはもう何もない。
カップの縁を踊るように漂う香りを味わっていると、
砂糖が焦げたような匂いが混ざる。
「チェキっ!」
飛び上がるように跳ねた四葉メイドは、慌てて部屋を出て行く。
「チェキィィィィィ!!」
数秒後、キッチンから断末魔の雄叫びが上がる。
「……せっかく焼いたお菓子がぁ……」
気になって四葉メイドを追った先には、煙を吐くオーブンレンジが。
改めて言おう。カンペキだ、四葉。ドジっ子メイドこそ、萌えの定石である。
が、調子づかせると君の身の為にならないので、あえて口に出すのはやめておこう。
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